想像しなさい
3月に入って、長かったグレー色の空が一転して、青色の広がりへと変わった。てんてんととぎれとぎれに浮かんだ雲が、四角く切り取られた窓からやや急ぎ足で右から左に緩やかに流れていく。
窓の外の風の変化を感じれる様になると、暖まった空気があの日を思いおこさせる。
あの日の事は今でもはっきり覚えている。
何も普段と変わらない一日だった。
変わらない会話。変わらない食卓。変わらない日常。
只違ったのはブラウン管から映し出される映像が、映画ではなくニュース番組から流れている事だった。
ある人は全ての未来を得る為に真実を知りたがった。
目に映る実態のあるもの全てが浮き彫りになってガラガラと崩れさった後、それらを再三かき集めては真実を探した。
しかし、事実は鏡に映っただけで、実態にはならなかった。
あれからあの人はどれだけの真実を見つけられただろうか?
そして、繋ぎ合わせた真実を持って、未来を創造しはじめただろうか?
またある人は真実を拒否した。
乱雑に流れ込んで来る真実は、実態の無いまま重苦しい事実だけを積み上げ、未来を否定してしまった。
そして、その人は真実を知るのをやめた。
見に映る未来を生きる為に。
それぞれがそれぞれの未来の為に、真実と向き合い、日常を過ごして来た。
それでも人々は其々のつぎはぎだらけの靴下を明日も履いて歩く。