2014/01/23

ニュートラルな誘惑



今になって、彼が何を言おうとしていたのか理解できた気がした。

言葉を理解するには同じデーターベースが必要だった。


あの時の会話は常に平行線でしかなたった。


総じて、なるほどな、と思った。


人とは、個とは、群とは。。。

2014/01/19

贖罪



祖母がその犬を飼いだしたのは、あまりにも突然の事だった。
きちきちと整理された家のちょうど真ん中あたりに、小さなゲージまで用意した。
しかし、ほどなくしてあっけなくその犬を手放した。

行き先に困った犬は、仕方なく私の家に来た。
生後数ヶ月ほどのミニチュアピンシャで、名前はすでにあった
シッポを丸め、物音がするたびに、やたら頭に響く声で吠え続けた。

それでもどうにか、食事にありつく方法を身につけ、それなりに芸も覚えた。
ただ、臆病な性質は変わらず、四六時中、昼夜かまわず吠えまくった。

ある日、どういう好奇心にかられたのか、彼女は階段を登ってみせた。
彼女の視界に開けた、いつもと違う空間にカチャカチャと爪が床に刷れる音が弾んでいた。
そして、この新境地を一通り見て終え得て、階段の前まで来た時、その足音を止めた。
階段の角に片足の爪をかけてははずし、きゃんきゃん吠えた。

その音は、恐ろしく耳障りな声だった。

彼女の小さな冒険は何回も繰り返され、彼女は少し階段を降りる勇気を持ち始めていた。しかし、決まって階段の上できゃんきゃんと吠えた。
繰り返されるその行為はまるで進歩がないように見えた。
その度、やってきた手に助けられて、階段を降りなくてはならなかった。

その日、例の様に、階段の上で下に向かってめいいっぱい吠え続けた彼女は、ぐっとかがんでは跳ねた。
さらに激しく吠えては、固い床に爪を立てた。
その音は鳴り止みそうになかった。
やがて、気を動揺させた足に彼女の足が救われて、彼女は階段から転げ落ちた。
ぎゃいん。
悲痛な鳴き声が無情に響いた。

年をいくつか重ねた後、その犬は時おりのみ吠える事を許された。
もう階段を降りようと試みる事はない。

時々、読書をしている私の膝の上に乗って来て、片足で私の手をトントンとつつく。
私は彼女の首もとを撫でてあげる。
彼女はさらに体をすり寄せて、満足そうに、その身を私の膝の上に降す。

2014/01/17

侵入者

「与えるって言うのは、暴力行為なんだよ。」
置き換える様に言い残す。
残された私は、また待ち続ける。

ある晴れた日、古い蔵の中を探索する事が決まった。
長らく、文明と接続を絶った、未知の領域に、幾分か興味をそそられた。

幾人かの仲間と共に、重く分厚い引き戸を無理やり引くと、バラバラと壁の砂が溢れた。
目の前の視界が開けると、隙間から差し込んだ光が先ほどの砂埃を反射してキラキラと浮遊している。
辺りは誇り臭かった。

所狭しと乱雑に詰め込まれた民具の隙間を、大股でまたいで奥に進もうと試みるが、どうにも進めそうにない。
諦めて、戸のすぐ側から登れる階段を先に上がって、屋根裏から覗く事にした。
上階へ進む道中の軋む音にも躊躇無く進む。

誰かの写真がバラバラに押し詰められた木箱が足下にあった。
若い男女が海辺で映っている写真だった。
そこには、白人女性と、日本人らしい東洋人男性が、ビーチチェアに座っていた。

妙に興味をそがれた気がしたが、程なくして他のものに心奪が止まった。
誇りで黒くなった私の足下には白骨化した猫がいた。

せいとせいの活動を破壊し、補う、そして、与える。
不完全なそれ。


2014/01/09

こんな夢をみた


VER.1

こんな夢を見た。

青白く光りだした上弦の月を、ただ心地よく眺めていると、冴えた調子で、もし、と呼ぶ声が耳に入った。

女の声だった。

やや緊張感を含んだ声色に魅かれ、声の方へ向き返ると、白練の狐面をつけた女が立っていた。

女は、白い衣の前で重ねた手をほどいて、ゆらゆらと手招きしてから、音も無く歩き出した。

向かった先には、面妖な病院があったーー





2014/01/04