2006/07/13

弟22回ヨーロッパ旅行記

Pythion→Uzunkopru

列車は寝台がついていて、今日はこの寝台で寝る事にした。
言葉の分からない上に乗務員の口調は荒く、怖い。
ぼったくられたりしないかとハラハラしつつ、どうにかお金を支払い床に着く。

列車は奇妙なうなり声を上げながら暗闇の中を進んで行く。
ようやく眠りに落ちた頃、何か遠くから順番に迫ってくる声が聞こえた。
するといきなり、ドアを叩く凄まじい音と怒鳴り声で起こされる。
「ドン、ドン、ドン!!」
「ドン、ドン、ドン!!」
「パスポート!!!」
「パスポート!!!」
何が起ったのか理解できずに、ドアを開けるのを戸惑っていると、必要に扉を叩いて来るので慌ててドアを開ける。そこに現れたのは制服を着て、やや色黒で、黒く太い眉と髭をはやした男性だった。
トルコ人だ。
「パスポート!!!」
「パスポート!!!」
なんだか鼻息荒く怒っている。
私達はとりあえず切符とパスポートを見せる。
彼は切符には目もくれず、パスポートだけをぶん取り、険しい目でパスポートを見る。
通路で何やら怒鳴ってくる声が響き渡る。
それに反応する様に、彼は何か言い放ち、パスポートを持って立ち去ろうとする。

海外にいる外人にとって、必要不可欠なパスポートを取り上げられるという非常事態に、私達は慌てて呼び止めるが、苦肉にも言葉が通じない。

さらに悪夢は続き、そのまま列車を下ろされる。
よく見ると私達以外の人も数人下車させられている。
外はもう明るくなっていた。小さな駅のホームの向うには頑丈に張られた網に囲まれており、点々と生えた木の間に数台の戦車があった。
ぞっとした。
駅だと思っていた小さな小屋は日本の交番のような形で、同じ様なマークが同じ所に着いていた。
そう、ここはギリシャとトルコの国境なのだ。
他の人は何処へ行ったのか分からない。私達だけ小屋に通され、壁に並んであった椅子に座らされる。目線の先には小さなデスクと古いパソコンがあり、彼はパスポートとパソコンを見て何やらやっている。その険しい表情に、もしかしてこのまま捕まってしまうのではないかなどと想像しながら、彼の様子を伺う。

数分の沈黙の後、
「Istanbul?」と言われ、
「Yes!Yes!」と即答した。
さらに、何処から着たか、なんでフランスに住んでいるか、いつ日本に帰るのかなど片言の英語で聞かれたので、私達は必死に答える。どうにか内容が伝わったのか、私達の必死さに彼の目が一瞬温かいまなざしに変わった。
私は「あ、許されたんだ。」とさとった。

その後、無事パスポートを返してもらい、列車の出発時刻を訪ねると、後3時間待たなければいけなかった。そのまま小屋の中で時間が過ぎるのを待った。

列車に乗り込む時、厳格な彼にお別れをいい、手を振るとそれに答える様に優しい微笑みを浮かべて見送ってくれた。
つづく